教養力就活

ライバルに3歩差をつける、就活(とキャリア)に役立つ教養っぽい話

イノベーティブな「ムダ」/アリの生態にみる「ムダ」のポテンシャル

f:id:kyouyouryoku:20160218150739j:plain最近急に話題になっていますが、北海道大学の長谷川英祐准教授によれば、働きアリの2割は、実はほとんど働かず、しかもその2割の働かない「働きアリ」を隔離すると、今度は働いていたはずのアリから、また2割が働かなくなるといいます。2004年に発表されたシワクシケアリ(日本で一般的にみられるアリ)についての研究なのですが、最近になって再び新聞などで紹介されました。そこで、今回はその内容をもうちょっと突っ込んでみつつ、そこから得られる気づきをご紹介したいと思います。

労働量に差が出るのは「反応閾値」のバラツキが関係しているようで、単純化して言えば、「働かなくちゃヤバい」という危機感に近いと言えます。新しい仕事を現れたとき、コロニーの中で相対的に危機感の強い層(閾値の低い層)がまずその作業に取りかかり、別の仕事が現れ次第、その次に危機感の強い層(閾値のやや低い層)が作業に取りかかり・・・というように順々に作業が分担されていき、末端のやつらはボーッとしているというメカニズムらしいです。ただ、そうであれば末端の2割を除いたときに残り8割の中から新たに「怠け働きアリ」が登場するのには疑問が残ります。

このことについて、同准教授は、コロニー全体を維持しようとする力も働いているからと考えているようです。つまり、コロニーには卵の世話などのように、短い時間でも中断するとコロニーに致命的なダメージを与える仕事が存在していて、全員が一斉に働いて一斉に疲れたりすると大問題になるので、2割くらいのアリが控え選手としてベンチ入りしているんだとか。こうした、「余力」という名の「ムダ」が、組織全体のパフォーマンス維持に貢献しているそうです。

そしてもう一つ、コロニーの中には、物覚えの悪い落ちこぼれアリや、皆と同じ行動をとらないはぐれアリもいるそうです。アリは餌を見つけるとフェロモンを出して仲間にその餌までのルートを伝え、それに従って皆で餌を巣まで運ぶわけですが、そのルートをガン無視して好き勝手ほっつき歩くアリが出てくるといいます。しかし、そういうアリが新たな最短ルートを発見したり、既存ルートが何らかの理由で遮断されたときに代替ルートの開拓者になるそうです。集団が導き出した効率性とは外れる、むしろ逆を行く「ムダ」な行為のように見えて、結果として、そういう異端児が一定数いる集団のほうが、生存率が高くなるそうです。(ハリウッド映画などで、主人公のピンチを社会不適合なマッドサイエンティストギークが救う状況に、なんだか通じるものがありますね。)

研究の中では、このあたりはメインの論点ではないようですが、何かと効率と合理性を求められる現代の私たちにとっては、この「ムダ」が生み出すイノベーションこそ、大きな示唆を持っているのではないでしょうか。実際、ヤミ研といって、メーカーの開発者などが正規の業務とは別の時間にこっそり開発作業を行ったことで、VHS規格(←10代の方はもはや知らないかもしれませんが。。)やデジカメの先駆けとなったカシオQV-10、もう少し最近では青色LEDをが生まれたという事実もあります。

以前、広告代理店勤務時代に私が所属していたクリエイティブチームが、東京大学の調査対象になり、「創造的アイデアはいかにして生まれるのか」という研究の一環として、打合せ風景をフィールドワークで観察してもらったことがありました。そして研究チームの結論は、「打合せの9割が雑談とムダ話。でもそこから突発的に優れたアイデアが生まれる」というものでした。

ただ一方で、「ムダ」が本当に「ムダ」のまま終わるケースもありますし、私たちは職人さんの「ムダのない動き」を美しいと感じたりもします。さて、みなさんは「ムダ」とどう向き合いますか。

 

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