教養力就活

ライバルに3歩差をつける、就活(とキャリア)に役立つ教養っぽい話

ヒーローか、侵略者か/SF映画と帝国主義

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1996年、『インデペンデンス・デイ』というハリウッド映画が大ヒットを記録し、アカデミー賞も受賞しました。突然巨大な宇宙船がやってきて、人類に攻撃を仕掛けてくるが、勇敢なアメリカ人によって世界が救われるという話。

実はこの映画、ハーバード・ジョージ・ウェルズというイギリス人SF作家のラジオドラマ『宇宙戦争』が原作だということは、『インデペンデンス・デイ』を知っている人にも、意外と知られていません。ストーリーは単純明快。タコのような姿をした火星人がやってきて、人間たちの和平の意志も気にせず、見たことの無い兵器で次々と虐殺を行っていく。人類全滅かと思われたが、火星人は「造物主」が太古の昔に造った微生物に感染し、あっけなく死んでしまうというもの。
ストーリーは単純ですが、この作品には重大な社会的メッセージが込められていました。『宇宙戦争』が発表されたのは、1898年。時は帝国主義時代。当時圧倒的な経済力と軍事力を誇ったイギリスは、殺戮と不平等条約によって、世界各国の植民地化を進めていました。略奪がもたらした富によるイギリスの経済的隆盛を人々が謳歌する中、ウェルズは「我々が行っていることは、およそ人間のすることと思えない、おぞましい行為だ」とし、その痛烈な社会風刺として、この作品を発表したのでした。つまり、火星人とはイギリス人自身のメタファーで、ドラマの中の舞台は植民地のことを暗に指していたというわけです。

しかし時を経て、『宇宙戦争』のメッセージは歪められ、「正義の味方、そして人類代表、アメリカ人!」になってしまいました。そういう自己中心主義は、アメリカ人にありがちなことではありますが、翻って私たちはどうなのか、という問いもまた突きつけてきます。NYの3.11テロで亡くなった他人に祈りを寄せる一方、テロリストたちはなぜ、何に怒っていたのかということに目を向けているでしょうか。パリで129人が志望する同時多発テロに心を痛める一方、その前日のレバノン・ベイルートでのテロは「物騒やなあ」くらいで済ませていないでしょうか。

良いと思ってやったことが、相手を傷つけていないだろうか。「市場の活性化のために」「日本経済のために」というビジネスが、既存のビジネス生態系を破壊していないだろうか。そういう視点を、いつも忘れないようにしたいものですね。