教養力就活

ライバルに3歩差をつける、就活(とキャリア)に役立つ教養っぽい話

「外」から答えを持ってくる/ポアンカレ予想が語るイノベーションのヒント

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世紀の難問、ポアンカレ予想。名前くらいは聞いたことがあるという人も多いと思います。フランスの数学者アンリ・ポアンカレが1904年に提唱した予想で、「単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相である」という、ちょっと頭の痛くなる定理。ポアンカレとしては「俺、証明はできないけど、たぶん正しいから、みんなで考えようぜ」という立場だったので、その後数々の数学者がこの定理の証明に取り組みます。

ちなみに「単連結」とは、図形に沿って1周紐をかけたとき、どのようにかけても、その紐を図形から離すことなく1点にたぐり寄せ、回収できる図形のことで、球面や球体はその一つです。ドーナツ型のように穴が空いた図形は、かけ方によっては紐がひっかかってしまうので単連結ではありません。「閉多様体」というのは、大きさが有限で、端や切れ目が無いものを言います。「同相」というのは、粘土のように曲げたり伸ばしたり縮めたりして、最終的に同じ形に変形できるものを言います(ただし、ちぎったり、つながっていなかった部分をつなげたりするのはNGです)。例えばバレーボールとラグビーボール赤血球は全て同相です。マグカップとドーナツは結局輪っかなので同相です。つまりポアンカレ予想は、ざっくり言うと「表面なり内側なりに紐をどうかけても、紐をたぐり寄せて1点に回収できる3次元立体なら、球体とだいたい一緒」というもの。

さてこの問題、直感的にはなんとなく分かるのですが、いざ数学的に証明しようとするとめちゃめちゃ難問だということが、だんだん分かってきました。最初に大きな一歩を踏み出したのは、アメリカの数学者スティーブヴン・スメイルで、「3次元じゃなくて、5次元以上だったらいつでも正しい」という証明内容でした。でも3次元や4次元については分かりませんでした。1961年。約半世紀が経過していました。そしてこのあたりから、トポロジー位相幾何学)の分野が発展していきます。先程の、同相かどうか等の論を含む、図形の分類に絡む数論で、今まで解けなかった(or解きにくかった)様々な図形問題をどんどん解決していきました。1970年代にウィリアム・サーストンがこの分野の発展に大きく貢献し、1982年にマイケル・フリードマンが4次元については証明を成し遂げます。これらの功績等から、スメイル、サーストン、フリードマンとも、数学界のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞しています。

そしてこのあたりから、いよいよ位相幾何学ポアンカレ予想の鍵と見なされるようになってきました。

が、肝心の3次元でぜんぜん解けません。とうとうアメリカのクレイ数学研究によって100万ドルの懸賞が掛けられ、「世界の7大数学問題」の一つに数えられるようにもなりました。それでも、世界中の天才数学者をもってしても解けません。生涯をポアンカレ予想に捧げ、志半ばでこの世を去っていく学者もいました。

そんな中、ポアンカレ予想を証明したと唱える数学者がいました。ロシア人数学者、グレゴリー・ペレルマンでした。彼がこの問題を突破した方法は、最先端数学とされた位相幾何学ではなく、古典的数学と思われていた微分幾何学や、そして数学とは関係ない熱力学・物理学の理論を絡めるものでした。ペレルマンは解法の説明を求められて多くの数学者たちの前で壇上に上がり、自身の証明を解説します。その説明を聴いた数学者たちは、まず、ポアンカレ予想が解かれたことに落胆し、それが位相幾何学ではなかったことに落胆し、そして、解説がまったく理解できなかったことに落胆したといいます。「答えはきっとこのあたりにある」と多くの天才たちが挑んだのとは全くの異分野から、ペレルマンは鮮やかに答えを持って来たのでした。数学だけでなく、物理学にも秀でていたペレルマンだからこそできた偉業でした。

世界を大きく変えるアイデアや難問ほど、そのヒントは「外」のフィールドにあるのかもしれません(簡単に見つかりにくいですから、当然と言えば当然かもしれませんが)。フォード社を創業し、自動車を大衆のものに変革したヘンリー・フォードは、「顧客にどんな乗り物が欲しいかときいたら、『より速く走れる馬車が欲しい』と言うだろう」と語っていました。つまり、「馬車」という既存の文脈の外にある「自動車」こそ、真に社会を変えるものだと考えたというわけです。そう考えると、どんな寄り道や遠回りも、決して無意味ではなく、むしろ人と違う視点を獲得するチャンスになるかもしれませんね。

 

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イノベーティブな「ムダ」/アリの生態にみる「ムダ」のポテンシャル

f:id:kyouyouryoku:20160218150739j:plain最近急に話題になっていますが、北海道大学の長谷川英祐准教授によれば、働きアリの2割は、実はほとんど働かず、しかもその2割の働かない「働きアリ」を隔離すると、今度は働いていたはずのアリから、また2割が働かなくなるといいます。2004年に発表されたシワクシケアリ(日本で一般的にみられるアリ)についての研究なのですが、最近になって再び新聞などで紹介されました。そこで、今回はその内容をもうちょっと突っ込んでみつつ、そこから得られる気づきをご紹介したいと思います。

労働量に差が出るのは「反応閾値」のバラツキが関係しているようで、単純化して言えば、「働かなくちゃヤバい」という危機感に近いと言えます。新しい仕事を現れたとき、コロニーの中で相対的に危機感の強い層(閾値の低い層)がまずその作業に取りかかり、別の仕事が現れ次第、その次に危機感の強い層(閾値のやや低い層)が作業に取りかかり・・・というように順々に作業が分担されていき、末端のやつらはボーッとしているというメカニズムらしいです。ただ、そうであれば末端の2割を除いたときに残り8割の中から新たに「怠け働きアリ」が登場するのには疑問が残ります。

このことについて、同准教授は、コロニー全体を維持しようとする力も働いているからと考えているようです。つまり、コロニーには卵の世話などのように、短い時間でも中断するとコロニーに致命的なダメージを与える仕事が存在していて、全員が一斉に働いて一斉に疲れたりすると大問題になるので、2割くらいのアリが控え選手としてベンチ入りしているんだとか。こうした、「余力」という名の「ムダ」が、組織全体のパフォーマンス維持に貢献しているそうです。

そしてもう一つ、コロニーの中には、物覚えの悪い落ちこぼれアリや、皆と同じ行動をとらないはぐれアリもいるそうです。アリは餌を見つけるとフェロモンを出して仲間にその餌までのルートを伝え、それに従って皆で餌を巣まで運ぶわけですが、そのルートをガン無視して好き勝手ほっつき歩くアリが出てくるといいます。しかし、そういうアリが新たな最短ルートを発見したり、既存ルートが何らかの理由で遮断されたときに代替ルートの開拓者になるそうです。集団が導き出した効率性とは外れる、むしろ逆を行く「ムダ」な行為のように見えて、結果として、そういう異端児が一定数いる集団のほうが、生存率が高くなるそうです。(ハリウッド映画などで、主人公のピンチを社会不適合なマッドサイエンティストギークが救う状況に、なんだか通じるものがありますね。)

研究の中では、このあたりはメインの論点ではないようですが、何かと効率と合理性を求められる現代の私たちにとっては、この「ムダ」が生み出すイノベーションこそ、大きな示唆を持っているのではないでしょうか。実際、ヤミ研といって、メーカーの開発者などが正規の業務とは別の時間にこっそり開発作業を行ったことで、VHS規格(←10代の方はもはや知らないかもしれませんが。。)やデジカメの先駆けとなったカシオQV-10、もう少し最近では青色LEDをが生まれたという事実もあります。

以前、広告代理店勤務時代に私が所属していたクリエイティブチームが、東京大学の調査対象になり、「創造的アイデアはいかにして生まれるのか」という研究の一環として、打合せ風景をフィールドワークで観察してもらったことがありました。そして研究チームの結論は、「打合せの9割が雑談とムダ話。でもそこから突発的に優れたアイデアが生まれる」というものでした。

ただ一方で、「ムダ」が本当に「ムダ」のまま終わるケースもありますし、私たちは職人さんの「ムダのない動き」を美しいと感じたりもします。さて、みなさんは「ムダ」とどう向き合いますか。

 

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ヒーローか、侵略者か/SF映画と帝国主義

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1996年、『インデペンデンス・デイ』というハリウッド映画が大ヒットを記録し、アカデミー賞も受賞しました。突然巨大な宇宙船がやってきて、人類に攻撃を仕掛けてくるが、勇敢なアメリカ人によって世界が救われるという話。

実はこの映画、ハーバード・ジョージ・ウェルズというイギリス人SF作家のラジオドラマ『宇宙戦争』が原作だということは、『インデペンデンス・デイ』を知っている人にも、意外と知られていません。ストーリーは単純明快。タコのような姿をした火星人がやってきて、人間たちの和平の意志も気にせず、見たことの無い兵器で次々と虐殺を行っていく。人類全滅かと思われたが、火星人は「造物主」が太古の昔に造った微生物に感染し、あっけなく死んでしまうというもの。
ストーリーは単純ですが、この作品には重大な社会的メッセージが込められていました。『宇宙戦争』が発表されたのは、1898年。時は帝国主義時代。当時圧倒的な経済力と軍事力を誇ったイギリスは、殺戮と不平等条約によって、世界各国の植民地化を進めていました。略奪がもたらした富によるイギリスの経済的隆盛を人々が謳歌する中、ウェルズは「我々が行っていることは、およそ人間のすることと思えない、おぞましい行為だ」とし、その痛烈な社会風刺として、この作品を発表したのでした。つまり、火星人とはイギリス人自身のメタファーで、ドラマの中の舞台は植民地のことを暗に指していたというわけです。

しかし時を経て、『宇宙戦争』のメッセージは歪められ、「正義の味方、そして人類代表、アメリカ人!」になってしまいました。そういう自己中心主義は、アメリカ人にありがちなことではありますが、翻って私たちはどうなのか、という問いもまた突きつけてきます。NYの3.11テロで亡くなった他人に祈りを寄せる一方、テロリストたちはなぜ、何に怒っていたのかということに目を向けているでしょうか。パリで129人が志望する同時多発テロに心を痛める一方、その前日のレバノン・ベイルートでのテロは「物騒やなあ」くらいで済ませていないでしょうか。

良いと思ってやったことが、相手を傷つけていないだろうか。「市場の活性化のために」「日本経済のために」というビジネスが、既存のビジネス生態系を破壊していないだろうか。そういう視点を、いつも忘れないようにしたいものですね。

【発想の小ネタ】量子力学の凄さが分かる解説動画/訳が分からない事実を受け止めるトレーニング

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2016年2月11日、世紀の大ニュースが世界を駆け巡りました。もうニュースでご存知の人も多いかもしれませんが、LIGO(レーザー干渉計重力波天文台)が、地球から約13億光年の彼方で、2つのブラックホールが互いに渦を巻くように回転して衝突したときに発生した時空のさざ波「重力波」を直接検出することに成功したのです。

ブラックホールの1つは太陽の36倍の質量を持ち、もう1つは29倍の質量を持っていました。両者が合体して太陽65個分の質量に・・・とはいかず、太陽3個分の質量は一瞬にしてエネルギーに変わり、巨大な重力波となって地球にまで押し寄せました。

この、重力波というのは、以前このブログでも紹介した相対性理論一般相対性理論)から予測される物理現象だったのですが、100年以上実際に観測できずにいました。そして時を越えた今、この予測が実際に証明されたわけです。

物理学の世界は私たちの日常の感覚とは異なる現象がしばしば起こるもので、その最たるものが、量子力学ではないでしょうか。知れば知るほど「えっ・・・?えーっと、・・・えっ?えっ!?」という具合に「?」が増殖していきます。人間の感覚からすれば訳がわからないことばかりですが、でもそれらは実際に起きているわけです。

科学の発展は、「身体感覚では信じられないけど、理論上正しい」を信じる力で支えられているとも言えますし、そもそもコンピューター理論や経済学などは、もはやその領域にいます。そういう意味では、「訳がわからない事実」を受け止める力は、今後益々重要になってくるのかもしれません。

そこで今回は、その筆頭である量子力学の、「二重スリット実験」という有名な実験についての解説動画をご紹介します。

知識よりも、知識を使いこなす力/伝説の東大入試が教えてくれる「理解」の大切さ

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世間では「最も難しい」と言われることの多い、東大入試。しかし、「最も深い」と言った方が、実は正しい気がします。とりわけ、数学の問題の深さは、時に芸術的ですらあります。中でも2003年度理科(理系)前期入試の〔数学〕第6問は、「東大入試史上、最も美しい問題」とも呼ばれ、受験生や予備校、そして東大内でも、なかば伝説となっています。

その問題というのが、コレ。


「円周率が3.05より大きいことを証明せよ。」

 

マジです。ちなみに、「3.14・・・は、3.05より大きいから。」は×です。
本当に自明かどうかを問うているので、π3.14を前提にしてはいけません。でもこの問題、必要な知識は、高2くらいで誰もが習う「余弦定理」や「加法定理」で十分。さらに、「円周率は3より大きいことを証明せよ」だったら、小学生の知識で解けます。

数学の問題に限らず、東大の入試問題は、難しい知識をたくさん持っていることよりも、みんなが当たり前だと思っている基礎知識について、立ち止まって深く「理解」したかどうか、知識を使いこなせるレベルまで知肉化できているかを試す傾向にあります。一般的な高校教科書に載っていない知識を使わないと解けない問題は、本当に出題されません。

以前、東大レゴ部の作品がネット上で話題になっていました(この部の創設者の一人である三井淳平さんは、日本人初のレゴ認定プロビルダーでもあります)。レゴ自体は、5歳児くらいでも使えるおもちゃ。それを「こんなことまでできるの?」という高い水準で使いこなしたことが、驚きの源泉だったのではないでしょうか。

東大に言わせれば、「基礎」=「簡単」では必ずしもなく、「基礎」とは元来「本質」や「根本」を意味するものであり、自在に使いこなせるまでに突き詰めるべきものだということなのでしょう。確かに、例えば「基礎物理学」の分野は、決して物理学の初歩的な領域ではなく、物理のより本質的法則(それはもはやこの世界の成り立ち)に迫る、最先端科学の領域です。


またこの問題は、みんなが正しいと考えていることについて、「ほんとうにそうなの?」と疑い、考える力を試しているとも言えます。「公式だって教わったから正しいんでしょ」というように、思考を停止するのではなく、「そもそも何がどうなってこの公式になってるんだっけ」「そもそも正しいんだっけ」と考えてみてよ、というメッセージを感じます。
みなさんは、「国家を、社会を、知を牽引していくエリートたる者、ものごとを根本から、粘り強く考えられなければならない」という、強烈な意志を感じませんか。

ひるがえって私たちも、知っているつもりになったり、逆に、知識が足りないことをできない言い訳にしてはいけませんね。

ちなみに当時、巷では、「円周率を3としてもよい」という新学習指導要領が話題となっていました。東大のこの問題は、「円周率が3だなんて、ナンセンスだ!」ということを暗に主張する粋な風刺だったのかもしれません。

 

【解説は次のポストで】

とりあえず先に進む/相対性理論が教えてくれるクリエイティブな発想法

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人類の物理学の常識を根本から変えてしまった、相対性理論1905年の「特殊相対性理論」と1916年の「一般相対性理論」)。当時(というか結構前々からですが)、ニュートン物理学を基盤としたそれまでの物理学理論に色々矛盾が見つかり、世界中の物理学者たちは頭を抱えていました。その状況を打破したのが、アルベルト・アインシュタインでした。しかもかなり大胆に。彼が言い出したことは、ざっくり言うと次の通り。

 

「なんでか理由は分かんねーし証明すらできねーけど、

①光はどこからどうやって発しても速度が変わらない(=高速度不変の法則)ってのと、

②物体の運動を地上から見ようが、太陽系の外からの視点で考えようが、物理法則自体は同じ(=相対性原理)ってことにしようぜ。

いいじゃん、そう決めちゃえば全部解決すんだし」

 

科学的発想というのは、「AだからBが言える。BだからCが言える。・・・」というように、「ここまでは正しい」と言えて初めて次のステージに論を進めていくわけですが、アインシュタインの場合は、①や②が正しいと証明しないまま、「正しい」と決めて次に進んだわけです。ほんとに①や②が正しいかは、後で考えりゃいいじゃん、という発想。
この強引さによって、世紀の大理論を打ち立て、Facebookでチェックインしてリア充アピールができるようになり(GPSの話です)、未知の天体だって見つかったわけです。

今までの論から積み上げ式に導き出そうとしていたら、絶対にたどりつけなかったことでしょう。後で導き出せると仮定して、未来から話を始めるというこの考え方、実はマーケティングにも使えます。例えばApple社は、市場調査から「だからこういう商品が売れる」と導き出して製品作ることはせず、「こういう商品があるべき」という未来論から始めるそうです。だからジョブズ氏のプレゼンは、開発の経緯には触れず、その商品によってこれからがどう変わるかの話をする展開になっていました。これはソフトバンクの孫さんも同じです。

「証拠は無いけど」とか「理由は無いけど」を悪者にせず、理想から話を始めることが、イノベーションにつながるのかもしれません。就活生の中でも、「自分にできるかどうか分かんないし」ということを折り込んだ上で「やりたいこと」を語る学生がいますが、そういう話、正直聞く側はすっっっっっごく、つまらないです(かく言う私もかつてそういうタイプでした)。やれるかどうかは分かんないけど自分にもやれるということにして、未来を考えた方がよっぽど考えが深まりますし、その分実現可能性は高まります。

あれこれ悩むよりとりあえず前に進めば?と、アインシュタイン相対性理論は私たちに投げかけているような気がしてなりません。

 

ちなみに、「なんで物体は光より早く移動できないの?」など、相対性理論についてざっくり知りたい人には、 

面白いほどよくわかる相対性理論―時空の歪みからブラックホールまで科学常識を覆した大理論の全貌 (学校で教えない教科書) | 大宮 信光 | 本 | Amazon.co.jp

がめちゃくちゃオススメです。